二年前のことだ。
娘が玄関で「新しい家族です」と叫んでいた。
両手にあまりにも小さなオスの子猫をのせていた。
家族みんなが覗きに来た。
むごいことにコンビにのゴミ箱に捨てられていたという。
妻がそれから何日も「かわいそうに、かわいそうに」とつぶやきながら、涙を流して洗面所でノミつぶしに精根傾けた。
洗面台が吸われた血で真っ赤になった。
全部やっつけるのにしばらくかかった。
名前は茶色にちなんで「チョコ」と名づけられた。
実は家にはすでに老いたメス猫「ミュウ」がいた。
これはこの子猫を毛嫌いした。
それはそうだろう。注目は一気にチョコに注がれた。
「私の方が前からいたのよ」と言わんばかりだった。
よたよたチョコがすり寄ると小さな声でうなり、一緒にも寝なかった。
「もっと可愛がってあげな」無責任に人間たちは言い放った。
無視をされ逃げられてばかりのチョコは嫌われても嫌われても寄っていった。
しかし最近突然、ミュウはチョコによだれをなめられるようになった。
老いたミュウにとっては心地がいいようで満足顔だった。
劇的なことに、チョコの全身をなめてあげるようにもなっていた。
実に丹念に…。お返しということなのだろうか。
それなのに四、五日前からチョコが帰ってこなくなった。
珍しいことだった。ミュウは余り食事をしなくなった。
玄関に出てキチンと座り、誰が声をかけても一定の方向を見つめていた。
「チョコ帰ってこないかな」「ミュウは待っているんだね」
家族でそんな会話をしていた。
妻が昨夜夢をみた。
チョコが「捜して」と言っているような夢だったという。
今日の昼、隣接地の畑でチョコが倒れているのが見つかった。
庭に小さな墓をつくった。
ミュウはそこによく行きそこから動かない。

「左がミュウ、右がチョコ」